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株式会社明電舎沼津事業所(静岡県沼津市)

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株式会社明電舎沼津事業所
(静岡県沼津市)

株式会社明電舎は1897年(明治30年)、東京市京橋区船松町(現在の東京都中央区)で創業。社会インフラ構築事業から、産業分野への製品・システムの供給まで、幅広く事業を行っている。
従業員数は、9,647名(2021年3月末)。国内には主に4つの事業所があり、沼津事業所が最も大きく、約3,450名(派遣やパートを含む)。
今回は、安全衛生管理部副部長の三浦崇さんと、安全衛生統括課主任の酒井卓也さんからお話を伺った。

メンタルヘルス対策を含む健康経営の取組みをISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)の一環に位置付けることによって、取組みの実効性を高めている

まず、メンタルヘルス対策をはじめた経緯と、健康経営の取組みについて、お話を伺った。

「当社のメンタルヘルス対策の歴史としては、1957年10月に大崎工場(当時)内に相談室を開設したことが大きいと考えています。当時の資料の中では、『日常接する従業中不適応状態にある者に解決への自主的援助を与えることは、ますます機械化し分業化され、単純化される産業構造の中に働く従業員に対する福祉の一環であり、延いては生産性への道に通ずるものであるとの希望が開設に至った動機』と示されています。そして、『このような新しい制度を導入するにはトップクラスの深い理解と援助が特に必要である。この点、当工場の職場の明朗化の方針ともマッチし暖かい理解を寄せられたことは幸せであり、仕事を軌道に乗せるに大きな力となった』と担当者が説明しています。経営者の理解のもと、メンタルヘルス対策を積極的に取組み始めたことが、現在の健康経営の取組みにもつながっていると考えています。現在も、沼津事業所にはカウンセリングルームを設置し、外部のカウンセラーによる相談対応を行っています。最近は、コロナ禍ということもあり、オンラインでの面談も増えています。」

「メンタルヘルス対策を含む健康経営の取組みを本格的に始めたのは、2019年からです。2019年4月に“明電グループ健康経営宣言”を策定し、内外に発表しました。『明電グループの企業理念“より豊かな未来をひらく”の実現のためには、従業員が心身ともに健康な状態を維持し、生き生きとやりがいを持って働くことが重要です。従業員の自発的な健康活動に対する積極的な支援など、一人ひとりの健康を組織で支える活動を推進していきます』という内容で、自社の理念と、健康経営で問われている健康課題を対応づけて、企業理念に沿った健康経営宣言にしました。健康経営の5本柱の中には、『メンタルヘルス推進体制の強化とメンタルヘルス疾患を生み出さない職場づくりの推進』も含まれています。」

「そして、取組みの実効性を高めるために、ISOのプロセスに埋め込む方針としました。当社は当時すでにISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)を取得していましたので、この活動に健康経営の取組みを統合し、推進部門のミッションの設定と体制づくりを行い、PDCAサイクルを回していくことにしました。まず、“事業者による安全衛生方針の表明”が必要ですので、社長と安全衛生・健康管理担当役員を中心に、安全衛生部門・人事部門、産業保健スタッフ、労働組合、健康保険組合で構成される“コラボヘルス委員会”で安全衛生方針を策定しました。そして、ISO45001目標の中に、“安全衛生目標”、“健康経営目標(スマートチャレンジ明電5)”、そして、“心の健康づくり計画”を盛り込みました。この3つの目標に対して、計画を立てたり、活動を実施して日常的に点検・改善を行うプロセスは、各事業所の安全衛生推進委員会が担っています。私たち安全衛生管理部では、危険性または有害性の調査の実施を通じて支援しています。全体のシステム監査は、経営監査部が実施しています。(【図1】参照)」


【図1】推進部門のミッションの設定と体制づくり

「2019年下期からは“健康経営目標(スマートチャレンジ明電5)”の具体的な取組みを始めました。①卒煙プログラム推進、②アンダー39 (若年層向け保健指導)、③オーバー40 (ミドルエイジ向け保健指導)、④がん対策推進、⑤心の健康づくり推進、の5つの取組みがあり、“コラボヘルス委員会”の傘下にこれらの活動を推進する“分科会”を設置しています。例えば、“②アンダー39 (若年層向け保健指導)”では、30代で特定保健指導の対象となる肥満度の者が少なくないことから、先輩社員が健康の秘訣を紹介するといった健康教育や、モバイル端末での保健指導を、若年層向けに実施しました。また、スマートフォンのアプリを使って、仲間や家族と一緒に参加できる“明電スマートウォーキング”を開催し、参加などの行動変容を促しました。その結果、40歳未満の適正体重維持者率を2020年度までに70%以上にするという計画を、2019年度に71.9%と前倒しで達成することができました。“健康=財産”という想いのもと、早期アプローチを強化した取組みを拡充しています。」

「その他、社員教育の一環として、健康ポスターを作成したり、全従業員に健康手帳を発行したりしています(【図2】参照)。こうした活動は、分科会のメンバーが中心になって進めており、メンバーそれぞれの得意分野を活かすようにしています。例えば、ロゴなどはデザインが得意な社員に任せました。また、社内向けのeラーニング教材を制作した際には、専門用語などの難しくてわかりにくい説明を、平易でわかりやすい言葉に言い換えることが得意なメンバーのアドバイスを踏まえて修正し、より実感をもちやすい教材になったと考えています。こうした取組みの積み重ねが、2021年3月の“健康経営銘柄2021”の選定につながったと考えています。」


【図2】ポスターと健康手帳の作成

従業員の視点に立って、ストレスチェックが受検しやすくなるよう画面構成や受検方法を改善したり、医師の面接指導における情報開示範囲を分かりやすく説明したりすることによって、受検率、実施率が向上している

次に、ストレスチェックとメンタルヘルス対策の取組みについて、お話を伺った。

「職場のメンタルヘルス対策も、2019年からますます力を入れて取り組んでいます。特に力を入れたのが、ストレスチェック関連です。まず、ストレスチェックの実施ツールを改善しました。これまでのツールは使い勝手が悪く、最後まで受検しないという社員もおり、受検率がなかなか上がりませんでした。そこで、ストレスチェックの実施ツール業者に改善要望を出し、文字の見やすさやボタンの配置などの画面構成の改善に加え、タブレット端末やスマートフォンなどでも受検できるようにしてもらいました。その結果、2019年度のストレスチェック実施率は96.1%と、前年の91.2%から約5ポイントも上がりました。」

「併せて、質問項目に、ワークエンゲージメントなどの“新職業性ストレス簡易調査票”の項目を加えました。集団分析のための集計もしやすくなり、ポジティブメンタルヘルスの視点から検討することも可能になりました。」

「集団分析結果は、仕事のストレス判定図に沿って、職場のストレス(4タイプ)と職場のストレス緩衝要因(4タイプ)の組み合わせを、職場タイプ(4×4=16タイプ)として、各職場を分類集計しました。この結果を踏まえて、職場のストレスの緩衝要因を高めるソーシャルサポートなどラインによるケアの施策に重点を置くことにしました。具体的には、eラーニングによるメンタルヘルス研修やメンタルヘルス・マネジメント検定の認定取得の奨励などを行っています。また、この集団分析結果は、管理職の集合研修の中で、従業員意識調査の結果と合わせて、毎年説明しています。」

「高ストレス者に対する医師の面接指導の実施勧奨の仕方も改善しました。社員に安心して面接指導を受けてもらえるよう、面接指導を受けた場合の会社への情報開示範囲を丁寧に説明することを心がけました。たとえば、労働組合の広報誌に、イラストと簡易な説明文で、面接指導の流れや相談内容の秘密は守られることなどを示しました。その結果、2019年度の医師面接指導実施者数は、前年の約1.8倍となりました。」

「メンタルヘルス対策の基本は、メンタルヘルス不調の早期発見、早期対応だと考えています。そのためにも、日頃から、従業員自身メンタルヘルスに関心を持ってもらうことが大切だと考えています。最近では、食堂などに配置しているデジタルサイネージを通じて、安全教育の動画など共に、メンタルヘルス関連の情報発信や動画も流しています。今後は、工場内のできるだけ多くの場所にデジタルサイネージを設置し、健康経営やメンタルヘルス情報の認知をさらに高めていきたいと考えています。」

【ポイント】

  • ①メンタルヘルス対策を含む健康経営の取組みをISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)の一環に位置付けることによって、PDCAサイクルをまわすことになり、取組みの実効性が高まる。
  • ②分科会のメンバーそれぞれの得意分野を活かして取り組むことが、前向きな活動につながる。
  • ③従業員の視点に立って、ストレスチェックのツールや情報提供の仕方を改善していくことが、受検率や、面接指導の実施率の改善につながる。

【取材協力】株式会社明電舎
(2021年11月掲載)